「レイサマリー」について学んでみた
レイサマリーとは、欧州の臨床試験規則で作成が義務化される文書で、読者は患者や一般市民です。
10月18日にオンラインで実施された日本メディカルライター協会 第25回シンポジウムのトピックでした。
日本メディカルライター協会の講座は数年前に英文ライティングの講座を一度、受けたことがある程度。
おもしろそうなセミナーをよくしていらっしゃるので、たまにホームページをチェックしているのですが、セミナー代金が非会員だと1万円程度するので躊躇することがよくありました。
今回は、なんとなく自分の中でもっと知識をつけたいという気持ちが高まっていたタイミングでしたし、患者向けということで少し柔らかい内容かなと思って参加してみました。
https://www.jmca-npo.org/seminar/20240910.html
結果、今の治験文書や患者と医療者との関わりについての知識が深まり、大変よかったです!
セミナー申込時に「レイサマリー」という言葉は「聞いたことがあるような、ないような……」程度の認識でした。
でも、セミナーを聞いてわかったのですが、これを和訳したことがありました!
ただ、「レイサマリー」という名前で依頼されたわけではなかったので認識できていなかったのです。
患者向けの文書であることや、試験の結果を伝える内容だということはわかっていたのですが、対象年齢を確か10歳くらいだと指定されていました。
何度かその種類の案件を受注したのですが、必ずしも治験の対象者が子どもではなかったので不思議だなと思っていたのです。
子どもを対象にした治験なら、治験が終わった後に子ども向けに説明した文書を渡すことがあるというのも納得がいきます。
でも、成人が対象の治験で、10歳くらいが対象読者となる文書の翻訳依頼もあったので、(これは、その試験ではなく、その後に子どもを対象とする試験もあって、その参加を子どもが検討するときの資料なのかな)と思っていました。
全然違った。。。
そのあたり、翻訳会社さんからの説明がもっとあってもいいなと思うのですが、残念ながらそこまでなかったんですよね。
実際は、本当に10歳程度の子どもがその文書を読むのではなく(そういうこともあるかもしれませんが、基本的には)大人が読むのです!
ただ、大人といっても医療専門家ではない、一般市民または患者なので、専門家以外にもわかるような平易な言葉で表現をしてほしい、という気持ちが「対象読者:10歳」のような説明につながったのだと思います。
一方、私は完全に子ども向けの文書だと思っていたので、その年齢の子どもが習っている漢字を確認して、できるだけそれに合わせた漢字を選んだり、ひらがなにしたり、ふりがなを指定できるときはそうしたり……といった工夫をしていました。
的外れな努力!!!
今回のオンラインセミナーでは患者代表の方もいて、平易な言葉で書くというのはひらがなや漢字の使用に気をつかうことではないとはっきりおっしゃっていました。
病気や治療方法についてはあまり詳しくなくても、それ以外の面で社会人として何らかの貢献をしていらっしゃる方が多いでしょうし、読み書きに不自由があるわけではないでしょう。
それよりも、ズバッと「死亡率」や「生存期間」などといった言葉を患者向けの文書に書くのかどうか、書かないならどのように表現すべきかといった配慮の方が重要になってくるのですね。
あまりにも平易すぎると、科学的根拠の薄い文書になりますし、患者としても、例えば生存期間の平均を知ることで、それよりも長く生きられるかもしれないという希望を持つ可能性もあります。
一方で、学術論文のような文体では読んでもらえないでしょう。
レイサマリーと一口に言っても、対象読者が、治験に参加した人なのか、一般市民なのか、あいまいなこともあるようです。
例えば治験に参加した人なら、既に同意説明文書などからある程度の知識を得ているので、一般市民とは前提が違います。
患者が医療に対して感じる不満や不安を解決する手段として、レイサマリーは有用だと思いましたが、書くべき内容や、必要な人に届ける方法など、課題はさまざまだと知りました。
また、日本でも義務化するかどうかは一長一短あり、悩ましいところです。義務化すれば企業での予算や人員を確保しやすくなる一方で、内容が薄くてもとりあえず作成すればOKになってしまう可能性が出てくるからです。
実際のレイサマリーは、次のようなページで探せます。いずれもこの記事の執筆時点に確認したものです。
JCOG Japan Clinical Oncology Group 日本臨床腫瘍研究グループの場合:
トップページを下にスクロールして、「トピックス」欄の「一般の方向け」タブからリンクされている「患者さん向け試験結果説明書」がレイサマリーに当たります。
NOVARTIS(ノバルティスファーマ)の場合:
トップページの「患者さん/ご家族のための新薬開発情報」をクリックして、「治験結果の概要」を選択。利用条件に同意すると分野別に「患者さん向けの治験結果概要」がまとめられています。
https://www.novartis.com/jp-ja/
「レイサマリー作成の手引き」がPPI JAPANのウェブサイトで公開されています。
https://www.ppijapan.org/lay_summary
レイサマリーに限らず、治験を探したいと思ったときにはjRCTのサイトを使えます。探すために登録は不要です。
なお、レイサマリーはサンキューレターと重複する部分があると思います。私が依頼を受けた案件には、治験参加者を対象に参加してくださったことを感謝するということが書かれていたものもあり、それはレイサマリーというよりはサンキューレターに分類されるのかもしれません。
日本メディカルライター協会 第25回シンポジウム(概要)(終了済み)
テーマ:「患者・市民志向の治験関連ドキュメントの作成 ―レイサマリーを中心に取り組みの現状を把握し,課題を検討する」
https://www.jmca-npo.org/seminar/20241018.html
少しお高いかもと思ったのですが、値段の価値はありました。今後もいろいろなセミナーが企画されているのでまた参加してみようかと思います。
https://www.jmca-npo.org/index.html
何度か参加するなら、会員になった方がいいかもしれません。もしかしたら検討するかもしれません。
では!